2009年9月2日

高岡螺鈿細工 国本耕太郎さん(高岡漆器)


オンラインマガジン-日本各地の職人を訪ね、Made in Japanのものづくりの現場をご紹介しています。
子どもの頃から自然と“親の仕事の跡を継がなきゃいけないな”とは思っていたという国本耕太郎さんだが、『すぐにこの道に入らないで、よその釜の飯を食ってこい』という父の言葉もあって全く違う仕事に就いたことが、家業を継いだ今も血となり肉となっている。

富山県高岡には、春になると待ちに待った高岡御車山祭がやってくる。
華やかな桃山様式を帯びた高岡御車山は京都・祇園祭の山鉾を模した山車で、加賀藩二代藩主・前田利長公が高岡城を築くにあたり、町民に与えられたのが始まりと伝えられている。
高岡町民の心意気と財力に支えられた御車山は、高岡の金工、漆工、染織などの優れた工芸技術の装飾が車輪や高欄(こうらん)、長押(なげし)等に施された、日本でも屈指の華やかな山車。
この山車にも技巧が注がれている高岡漆器を製造する高岡漆器株式会社の国本耕太郎さんにお話を伺った。

メカニックから伝統産業へ

高岡漆器の創業は明治42年。そのときの立ち上げメンバーにすでに国本さんの高祖父がおり、国本耕太郎さんの代で5代目となる。

国本さん「私は高校を出てすぐデザイン専門学校に入り、そのあとオートバイのメカニックとして約10年間働いていました。その間にはオーストラリアやイタリアの勤務もありましたが、親からは帰ってこいとは一言も言われなかったですね(笑)でも僕は子どもの頃から自然と“親の仕事の跡を継がなきゃいけないな”とは思っていました。小学校の文集にも『漆器屋さんになりたい』って書いて、それを見て喜んだおじいちゃんからおこづかいを貰った覚えがあります(笑)」

代々続く伝統産業の家に生まれ育った耕太郎さん。一度はメカニックの道に進み様々な経験を積んだ。

国本さん「うちの父も『すぐにこの道に入らないで、よその釜の飯を食ってこい』という考えだったんです。それで僕は好きだったオートバイのメカニックになったんですが、父は東京のメーカーに丁稚奉公に行ってこいというつもりだったらしいです(笑)自分の中では20代後半の頃から、キリのいい30歳で今の仕事を辞め家業を継ごうと考えていました。そして30歳で家業に入りましたが、それまでの10年間、業種は違えど働いていましたのでその経験を活かしながら、今はおもに企画と営業の仕事を担当しています。」

高岡の歴史と漆器

高岡漆器の製造工程は大きく分けると木地師(きじし)、青貝師(あおがいし)、塗師(ぬし)に分かれる。

国本さん「木地師はその文字の通り、木を形にする仕事です。木地師の仕事にもいくつか種類があり、指物(さしもの)は木を組み立てていく技法です。曲げ物というのはお盆などに見られるように木を曲げて形にしていきます。挽き物は木のかたまりをロクロでくりぬいていくものです。青貝師はアワビなどの貝を薄く削ったものを日本刀のような刀や針を使って様々な形に切り、貼り付けていきます。道具はそれぞれの職人が使いやすいように工夫されています。」

薄く削り取った貝の真珠層でデザインを表現する。

繊細な作業が要求される職人技。

現代と向き合う伝統技術

日本全国の漆器産地では螺鈿(らでん)と呼ばれることが多い、貝を用いた加飾を、高岡では“青貝塗”と呼ぶ。そこには歴史の中で職人技を咲かせてきた高岡ならではの理由がある。

国本さん「通常の螺鈿は1mm以上の厚みのある貝を使うんですね。しかし高岡は0.1mm程の薄い貝を使うので、薄く削ることにより下の色が透け、黒い漆の上に貼ると青く見えることから青貝塗と呼ばれたんです。現在、青だけではなく様々な色を使って華やかな装飾をしています。高岡の町は前田公が築城した高岡城の城下町として整備され、全国から多くの銅器職人や漆器職人などが集められました。そんな中で漆器も、より絢爛な加飾を施したものが生まれました。そういった背景から高岡の青貝塗や彫刻塗の技が栄えてきたんです。」

製造現場から伝えていくこと

高岡漆器の作品ができるまでには木地師、青貝師、塗師といった職人がそれぞれの工程を担当し、はじめてひとつの作品が完成する。

国本さん「いま当社の仕事をしている職人は25人くらいです。一番若いのは20歳後半の螺鈿職人ですね。彼は輪島で本格的に漆器を学んできました。今回の名刺入れなども彼が手がけています。現在は全体の仕事量が昔よりも減ってしまっているので、なかなか雇用をかかえるのが難しいですね。」

時代背景の変化に、伝統産業もしなやかに対応していくことが求められると耕太郎さんは語る。

国本さん「時代も変わってきて、作り手側ももっと伝える努力をしなければならないと思っています。ただ作って終わりではなく、どういう想いでこれを作ったのかという背景や、どういうシーンでこれを使って欲しいかなどをきちんと伝えていくことが大切だと感じています。以前は漆器などの伝統工芸品はデパートで売れることが多かったので、デパートの販売員さんが伝える役目をしてくださっていたのですが、いまはデパートでもなかなか売ることが難しくなってきている。それをどう伝えていくかということがひとつの課題です。以前、カリスマ営業マンが『一万円のものを売るためには10分間お客様とお話をしろ』と言っていました。それだけ言葉を尽くし価値を認めてもらってはじめてお客様にはご納得して買っていただけるということなんですね。」

デザインを取ってみても、伝統的なものと現代的なデザインを取り入れるバランスもまた難しい判断が求められる場面だろう。実際の製造現場ではどのような視点で捉えているのだろうか。

国本さん「新しいデザインを作っていこうという気持ちは、実はあまりないんです。まずは見直すことから始めて、その過程で新たなものが生まれてくる。まさに『温故知新』ですね。これは伝統工芸では大切なことだと思っています。僕も家業をついでから2~3年は古いものよりも新しいもの-例えばイタリアのものなどを見てこういうものを作ろう!と思っていたのですが、いまは全く真逆で、日本のデザインはすごい洗練されていて格好いいし可愛い。世界に誇れる文化がこんなにもあるんだということを実感しています。そういう目線でもう一度見直していくと、特に江戸期のものは日本文化が成熟した時代で、てぬぐいなど庶民の生活道具でさえ遊び心があってきっちりデザインされている。この名刺入れも元々は古くからある伝統的なデザインの一部を取り出して新たにデザインしなおしたものなんですよ。」

日本文化とともに育ってきた漆器の文化。現代の作り手はどんな想いで作品を生み出しているのだろう。

国本さん「私たちの商品を見て、それを使っている生活イメージが湧くようなものを作っていきたいと思っています。ただ綺麗だから欲しいというだけではなく、使ってみたいと思ってもらえるようなもの。例えば奥さんが玄関に飾る漆器を買い、帰ってきた旦那さんが玄関でそれを見てほっとするようなもの。名刺入れなんかは特に、初対面の人との出会いを円滑にするツールになれればと思っています。この名刺入れが話のきっかけになってお互いが少しでも近づければ嬉しいですよね。」

高岡漆器株式会社
彫刻塗、勇助塗、青貝塗に特色をもつ日本屈指の漆器産地である富山県高岡市で、伝統的工芸品高岡漆器の製造、卸販売をはじめとして全国の工芸品の販売を手掛ける。とりわけ、加工した貝殻をモザイクのように組み合わせ、山水花鳥を表現した青貝塗には卓越した美しさが漂う。

高岡漆器株式会社 国本耕太郎さん。

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