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上品なプリーツが印象的なバッグ。これが畳の縁で作られていると気が付く人はなかなかいないだろう。
白壁の美しい町並みが古き良き面影を残す倉敷。江戸時代には天領として栄え、倉敷川畔は米や物資を載せた船や荷車でにぎわい、町には商人の町家や土蔵が立ち並んだ。その美しい景観は倉敷美観地区としていまも多くの人に愛されている。その倉敷から驚きの製品が生まれたのが2006年のこと。なんと畳の縁がモダンなバッグに生まれ変わった。
日本人なら誰もが馴染みの畳の「縁」をバッグへ大変身させた、株式会社かぐらやの営業部長 山本泰さんにお話を伺った。
古き良き情緒を受け継ぐ倉敷から
山本さん「畳の縁をバッグにしようと考えたのは、私の母である山本康代です。倉敷はもともと畳の縁の全国シェア80%を占めており、母も幼い頃から畳の縁の反物を見て育ちました。そういう、身近に畳の縁があった生活のなかで、母は小さい頃からぼんやりと「これを何かに使えないか?」と思っていたそうです。」
深みのある光沢の畳縁の反物。
畳の縁をバッグに
日常からなんとなく思っていた畳の縁の活用法。それをバッグにしてみようと思い、間近に迫っていたギフトショーに出展することになる。それが2006年2月のことだった。
山本さん「そのときは洋服がメインの出展でした。バッグは本当に少しだけ・・・母が試作品で作った数点のみを出しました。しかも旅行バッグよりも大きいくらいの特大サイズで(笑)それが思ったよりも好評価をいただきまして、そこから商品化となりました。」
全国の伝統産業にも数多く見受けられる産業の衰退。畳業界も例外ではなく、生活様式の変化に伴い厳しい状況が続いている。そのなかで畳の縁をバッグに生まれ変わらせたこの製品は、日常のなかにもたくさんのヒントが隠されていることを私たちに教えてくれる。
山本さん「私たちはモノづくりをする会社として、少しでも地域の活性化に貢献することができればと考えています。このバッグはもともと畳の縁なので「すべりやすい」「思ったようにカタチが出ない」「しわがよりやすい」などのマイナス面もあります。例えば「しわがよりやすい」という点をデザインの中でどう解消していくかを考えた結果、このプリーツのデザインが生まれました。」
いままでは単なる素材としてしか見ていなかったものを生まれ変わらせることができたのは、倉敷という町で育ち、地元の素材を見つめ続けてきた山本さんだからこそできたのだろう。そう考えると、私たちのまわりにもまだまだ眠っている宝があるはず・・・?あとは発想力と行動力が、新たなモノを生み出すために必要なのかもしれない。
しわがよりやすいなどの素材のデメリットもデザインでカバーする。
お客様の声を反映していくバッグ
山本さん「現在は自社工場で20人ほどの職人が製造にあたっています。女性がメインで、年代は30代から50代が多いでしょうか。また、購入していただいているお客様の年齢層がとても幅広いのもこのバッグの特徴です。2006年の商品開発から今までにさまざまな形や大きさの製品を作ってきましたが、それらは店頭スタッフの方やお客様からのご意見を取り入れて作っています。」
型は違っていても、かぐらやバッグには共通する「なにか」がある。それは畳の縁という素材が持つ素材感-落ち着いた光沢、深みのある色合いなどが、どことなく「和」の雰囲気を醸し出していることも一因のように感じられるが、それだけではない「なにか」がある。それはいったいなんだろう?
豊かな風景の中で、日々使う方の声に耳を傾けている。
山本さん「いままでは素材として存在する畳縁をどうデザインするかということに注力してきましたが、いま私たちが取り組んでいるのは畳縁そのものの開発です。例えば今までの畳縁は幅が8cmのものに限られていました。これはもともとの畳縁の規定なんですが、この幅を変えてみたり、またストライプ模様など、新しい柄にチャレンジしています。でも私たちが一番大切にしていることは『日本の手仕事の良さ』です。私たちのバッグはひとつひとつ職人がバランスを考えながらタックをつけていきます。そういう丁寧な仕事だからこそ今のご支持を頂いているんだと思っています。」
職人による手作業で丁寧にタックを縫っていく。
型は違っていても、かぐらやバッグには共通する「なにか」がある。それは畳の縁という素材が持つ素材感-落ち着いた光沢、深みのある色合いなどが、どことなく「和」の雰囲気を醸し出していることも一因のように感じられるが、それだけではない「なにか」がある。それはいったいなんだろう?
シンプルなデザインでありながら、バッグが主役にもなれる華やかさを持っている。例えば、母親へプレゼントするときに、畳縁という驚きの素材ことや、作っている人の愛情までを話してあげられることを想像すると、それはとても楽しくて幸せな気持ちになる。この幸せな気持ちこそが、贈り物をするときの喜びであり、このバッグの最大の魅力なのかもしれない。
倉敷の名産品である畳縁を活かした独特のフォルムとこだわりの色彩が個性を放つバッグやオリジナルウェアの製造・販売を手がける。