> > BITOWA 遠藤典宏さん (遠藤正商店)

2010年2月2日


オンラインマガジン-日本各地の職人を訪ね、Made in Japanのものづくりの現場をご紹介しています。
会津漆器の職人は少なくなり、組合は若手育成事業を実施しているが、2年間勉強後に独立しても自立した会津塗の職人としてやっていくのは厳しいのが現状だそう。そんな状況下、会津漆器協同組合の青年部に所属していた遠藤さんたちも新たな行動を起こすべく立ち上がった。

日常空間を上質な雰囲気に演出してくれるBITOWAの商品たち。

深みのある朱から盛り上がる金のコントラスト。オリエンタルな八ツ藤くずしの文様-日常空間を上質な雰囲気に演出してくれるBITOWAの商品たち。全国のインテリアショップでも見かけるほど人気となっているこのブランド商品は、福島県会津若松で生まれた伝統工芸品だ。伝統工芸に新たな息吹を吹き込んだBITOWAが生まれたいきさつを、プロジェクトの中心メンバーである有限会社遠藤正商店 代表取締役の遠藤典宏さんに伺いました。

産業の危機に立ち上がった作り手たち

遠藤さん「このプロジェクトはもともと会津塗の後継者不足問題がきっかけで誕生しました。会津塗は年々生産量が減っていき、業界全体が縮小傾向にあります。その現状を打開するために、私たち会津漆器協同組合の若手が立ち上げました。」

会津塗が産業として大きく発展したのが1590年頃。その後、江戸時代になると歴代藩主が技術革新に取り組み、中国やオランダにも輸出され隆盛を迎えた。しかし幕末、戊辰戦争により会津の地は旧幕府軍と新政府軍による戦火によって大きな打撃を受ける。そんな時代の波に翻弄されながらも明治中期には日本有数の漆器産地として復興を遂げた。

そして昭和期。太平洋戦争による職人の減少や、決定的な漆不足・高騰などの影響により、地場産業を支えていくための一案で代用漆としての化学塗料の使用が採用される。また、手塗り以外にも吹き付け塗装技術の開発など生産工程にも試行錯誤が続けられ、量産向き塗装材として取り入れられたのだ。こうした「伝統産業を継承するため」の様々な試みにより、これまでの会津塗とは違う広がりが見られ、今日のウレタン塗装技術の発展にも寄与したほどの高い技術を誇るようになる。

その会津塗の生産現場は今どのような状況にあるのだろうか。

遠藤さん「職人は少なくなりましたね。いまは100事業主を割ったかもしれません。以前は多い時で450事業主ほどいました。組合は若手育成事業として会津漆器技術後継者訓練校を実施しており、ここで2年間の勉強をして独立しますが卒業後に自立した会津塗の職人としてやっていくのは厳しいのが現状です。」

そんな状況下、会津漆器協同組合の青年部に所属していた遠藤さんたちも新たな行動を起こすべく立ち上がった。

遠藤さん「とにかく産業の危機を打開しなければならない。そのために何が必要なのかを考えました。その結果、従来の漆器商品だけではなく、販路開拓のためにも新しい商品開発が必要だと感じました。そこでプロダクトデザインの手法を会津漆器の製作現場に取り込めないかということで、2003年にデザイン・プロジェクトがスタートしました。当初は1年間で商品開発をして発表するという計画だったのですが、いざはじめてみると試作に時間がかかり1年間ではまるで発表できる状態までは行きませんでしたね(笑)結局は2年かかってなんとか完成品を発表するところまで漕ぎ着けました。しかし当初の目的である『販路開拓のツール』までは落とし込むことができなかったんですね。その理由として、もうひとつは価格についての問題がありました。デザインについてはある程度の評価を頂いたのですが、塗料も新しい素材を使ったり、思い切った形状にチャレンジしていることから、どうしても従来品や他の競合商品と比べて割高になってしまう・・・例えばお椀1つで4~5万してしまうような。これでは市場に出しても競争力がないということで、2005年にはBITOWAの原型となる商品のカタチは出来つつあったものの、販売までは辿り着けませんでした。」

新製品の開発はできたものの、市況にあった商品ではなくなってしまった。これは他の産業やプロジェクトでも起こりうるひとつの大きなハードルかもしれない。しかしここであきらめていては何も始まらない。遠藤さんたちプロジェクトメンバーの試行錯誤は続く。

遠藤さん「ちょうどその2005年に、中小企業庁のJAPANブランド支援プロジェクトに申請をすることになりました。当時は、せっかく開発した商品を発表できる場になれば・・・という軽い気持ちだったかもしれません(笑)」

JAPANブランド育成支援事業の認可をきっかけに・・・

とにかく前に進むためにはじめたが、当初の目的にはまだ遠いプロジェクトの進捗状態。2005年のJAPANブランドへの申請が、次のステージに上がるためのきっかけとなった。

遠藤さん「2003年に青年部がプロダクトデザイン事業を立ち上げようとしていた当時は、複数社の共同体としてひとつの商品を開発する手法もわからないし、作った商品を市場へ供給する仕組みも調整が難しい。本当に手探りの状態でした。しかし衰退していく現状をなんとかしようという思いだけで進めていました。ですから始めは組合のなかでも若手が中心の活動だったんですね。それが2005年にJAPANブランドの申請が通り、そのあとからは組合全体を巻き込んだ事業に発展していきました。」

2005年6月、JAPANブランドの支援を受け、プロジェクトは大きく前進をはじめる。しかしこの段階ではデザイナーも未定。決まっていたことは6ヶ月後の12月には完成品を提出しなければならないということだった。

遠藤さん「BITOWAの一番の原点は、はじめに言った通り会津塗の後継者不足の問題です。せっかく良い技術があってもそれを活かす場がない。そんな状態では職人を目指す人もいなくなってしまいますよね。でも自分達がやっている仕事や技術が日本国内だけでなく世界で通用するものになれば、会津塗に関わる人間の新しい目標にもなるのではないか、そういうプロジェクトになれればと思っていました。BITOWAというブランド名は、実はなかなか決まらなかったんです。2005年6月にJAPANブランドの採択を受けた時もブランド名はなく、その年の12月には商品を発送しなければならなかったので、この6ヶ月間は目まぐるしかったですね。この間にデザイナーさんを決め、商品企画を推敲し、完成まで漕ぎ着ける。そういったことがいきなり初年度の大きなハードルでした。BITOWAというブランド名が決まったのも商品提出ギリギリの11月頃だったので、プロジェクトのメンバー本人たちが『BITOWA』というブランド名に馴染んだのは2006年に入ってからだったかもしれません(笑)」

作り手の熱い想いが叶って誕生したBITOWAシリーズ

目まぐるしい6ヶ月の結果、会津塗の華やかな技法を持ちながらも、まったく新しい会津塗のブランドとして生まれたのが、ホテルライクな高級感と丁寧なクラフトマンシップを感じるBITOWAシリーズだ。

遠藤さん「試行錯誤の6ヶ月で生まれたBITOWAの第一弾は、BITOWAのブランドマークである八ツ藤くずしが高蒔絵の技法で贅沢に施されているシリーズです。このブランドの方向性は、私たちの中で『どうせ新しいことをするのであれば、いままで会津塗ではなかったようなものをつくろう』という気持ちで作りました。今までの会津塗は百貨店の販路が売上額で中心だったのですが、その他の柱となりえる販路開拓にチャレンジしたい。ブランドとして構築するのであれば、今まで私たちが食い込むことの出来なかったインテリアの市場で売上を確立できる商品をつくりたい。そういう思いから出てきた製品でした。
デザインは塚本カナエさんに担当していただきました。私たちが求めていたのは、第一に漆器製作の経験があるデザイナーさんということ。普通の商業商品と違い、伝統工芸品は作るのに時間がかかります。ですからどんなに頑張っても試作品がポンポンと上がるようなものではありません。そういうタイム感をわかってくれる方。そしてもうひとつは職人さんの意見にも聞く耳を持ってくれる方。やはり今までやってきた経験値は極力活かしていきたい。また、会津塗はいままで男性の作り手がほとんどだったので、女性の感性を取り入れたい。尚かつ世界を目指していきたいので、海外でも活動されていて、海外の生活感を肌で感じている方。そういった様々な要素を持ったデザイナーさんを探した結果、塚本カナエさんとご一緒させていただくことになりました。」

外部デザイナーを起用する場合、現場の職人とのコミュニケーションを取る時間は限られており、思ったようにお互いの意見を言い合えるようになるためにはお互いの努力がいつも以上に大切になる。塚本カナエさんとならば良いコミュニケーションが取れる予感がしたという。

遠藤さん「そんなこんなでデザイナーさんが決まったのが7月末頃、その時に私たちからも商品ラインナップ案は出ていたので、その後の打ち合わせのなかで塚本さんにも取捨選択などしていただき、11月頃に初めてBITOWAとしての商品が上がりました。初めて出来上がった製品を見たときの感想は『これは新しいことができるぞ』と思いましたね。今までの会津塗になかったものができると確信しました。」

BITOWAが成功した理由とは?

伝統産業×外部デザイナーのプロジェクトは全国でも行なわれている。成功するものもあればうまくいかなかった事例も沢山あることは事実だ。ではBITOWAの場合、うまくいった理由はどんなところなのだろう?

遠藤さん「自分達としてはまだまだ成功したとは思っていないので…難しいなぁ。(笑)まだ客観的に見れないのですが、一般的には『事業を進めていく上での熱き想い』と『冷静な判断力』がバランス良くまわっていくことで成功していくのではないかと思います。でも僕らの場合は『冷静な判断』よりも『熱き想い』のほうが倍ぐらいあったということが続いているひとつの理由でしょうか(笑)それと、原点として申し上げた『産業としての危機感』。あとこれは要因になっているかわかりませんが、現在このプロジェクトに関わっている中心メンバーは、全員、一度伝統産業とはまったく別の仕事をしていた経験のある面々なんです。私はむかし音楽業界で仕事をしていたんですが、他には商社で宇宙衛星関連の仕事、銀行員、証券会社、コンサルティング関係の仕事をしていた人。みんなもともとは家業が伝統産業ではあっても、一度まったく別の世界を経験しているんです。そういった経歴から、一歩引いた目線で会津塗のことを冷静に見られたのかな?と思います。例えば、会津塗の良さとして本当はもっと評価されていいはずと感じていたところが意外と過小評価されていたり、我々があまり評価の対象に感じていないところがお客様には大事にされていたり。それをある程度客観的に見ることができたことは良かったのかもしれませんね。
とはいえ、いきなり何でもかんでも新しいやり方でやるんだ!ということではうまくいきません。でも結果的にはしがらみを取っ払って一緒に新しいことをやっていこうという、将来に対して前向きな意欲を持った職人さんと一緒に仕事をすることができたことはとても幸運でした。そういう人たちの想いも背負っているから、僕らも簡単にはあきらめられないし、BITOWAをもっと成長させるための努力を続けなければならないと思っています。」

あきらめない。言葉では簡単だけど、実際に進めていると様々な問題や経済状況の変化などに翻弄されながらも貫き通すのは本当に難しい。それでも、あきらめない。

遠藤さん「最終の目標は、新しいマーケット・市場ニーズを造りだすことです。いままで伝統工芸品に触れたことのなかった人にも『伝統の美と可能性』を感じてもらい、それをきっかけにBITOWAだけでなく会津の工芸産品、しいては日本全国の伝統工芸品にも幅広く興味を持って使って頂くことができればこんなに幸せなことはありません。そういった盛り上がりができると、結果的には産業としても底上げすることができますから。」

BITOWAという美しい響きには、「美とは?」という意味と、美しさと日本(和)のアイデンティティ「美と和」の2つの意味を持つ。現代ニッポンの和の美意識を世界に広めたいという思いが込められた、その名にふさわしい商品価値を武器に、2009年1月23日からパリで開催される国際インテリアトレードショー『Maison & Objet』(メゾン・エ・オブジェ)に、BITOWAは4年連続で出展した。
日本から世界へ。BITOWAの躍進はこれからも続く。

ベースとなる木地。木製や合成樹脂などさまざまに取り入れている。

艶やかな漆。このほかウレタンやカシューといった塗料も使用する。

作り手たちの熱い想いが伝わる手仕事もいまなお機械と共存する。

手で蒔絵を施していく際につかう筆は多岐にわたる。

“高蒔絵”など会津塗の特徴を活かしたデザインが出発点だ。

有限会社遠藤正商店
福島県会津若松市において、「旬」の天然の素材にクラフト職人が命を吹き込み愛着の逸品を生み出す会津塗メーカー。
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日本の手仕事

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