骨董のある風景 涼暮月 青い器Japanese Antiques - Blue and White
若葉の季節を過ぎ、青葉に変わるこの時期。一雨一雨ごとに、青さを増します。すっきりと過ごしたいこの季節には、さらりとした絵付けの染付が良いようです。
This time when the season of young leaves has passed and the leaves turn green. Every rain brings more green. In this season, when you want to spend a refreshing time, blue and white porcelains are the perfect match.
青さを増す
若葉の季節を過ぎ、青葉に変わるこの時期。一雨一雨ごとに、青さを増すようです。湿気を含んだ南風が吹き、梅雨の気配を感じる一方、晴れた日の雲の形には逞しい夏を感じさせます。すっきりと過ごしたいこの季節には、さらりとした絵付けの染付が良いようです。
中でも染付のそば猪口は、雑器ながらも伊万里らしい非凡な美があります。江戸時代中期~後期に伊万里ではたくさんのそば猪口が作られました。そば猪口に宿る「用の美」の精神を柳宗悦が指摘しています。冷酒、新茶、お蕎麦、小鉢にと、何にでも使えるのが蕎麦猪口の魅力です。
猪の口に形が似ているから「ちょこ」。通が「ちょく」と呼ぶわけは、中国の「鐘」からきています。釣鐘を逆さまにした形の器で「鐘」の中国読みが「ちょんく」なのです。大きさの決まり事はありませんが「黄金比」はあります。底辺1に対して口縁、高さ1.3です。骨董には更に様々な形状と絵付けがあり、口縁が沿ったり輪花の形状になっているものも猪口の仲間です。
染付
白地に藍一色で絵付けしてある器を、「染付(そめつけ)」と呼称します。如月のコラムでご紹介しました「錦手(にしきで)」と並び、骨董の伊万里を代表する様式です。
染付のほうがずっと歴史が古く、中国・元時代の14世紀に景徳鎮で青い文様描いた器の生産が始まりました。その後、日本の伊万里へ渡り、伊万里からヨーロッパへ輸出されました。
ポーランドのアウグスト2世が伊万里から輸入した磁器を溺愛し、真似たものを作らせるために建てた窯がマイセンです。当時、青い顔料といえばラピスラズリという半貴石からとれる顔料が主流でしたが、大変高価でマリア様の青いローブを描くような「滅多なこと」にしか使えませんでした。
そこで、ベルリンの錬金術師によって発明されたのが人工的な藍色の顔料です。日本にもすぐに輸入されベルリンの藍が訛って「ベロ藍」と呼ばれるようになります。それまでの染付よりも鮮やかな発色が特徴的で明治時代の大量生産にはベロ藍が重用されました。
色々な器を使ってきましたが、いつも結局は染付を手にとっています。しとしと雨の降る今日は、ベロ藍の染付の鉢に春雨サラダを盛り込んでみました。暮しの中のちょっとした洒落です。
文/写真:藤川佳惠
*歴史の解釈には諸説ありますので、あくまでも一説とお考えください。