津軽塗伝統工芸士会は伝統技法の継承と更なる技術向上、そして後継者の確保と育成を目的とし1980年に設立されました。2018年現在、20名の津軽塗伝統工芸士が会員として活動しています。この度、弘前展に合せて、その中の有志12名より、力強く美しい津軽塗の匠の技をご紹介します。
津軽塗とは
津軽塗は日本最北端の漆器産地、青森県弘前市を中心とする津軽地方の伝統的な漆器で、はじまりは江戸時代元禄年間にさかのぼり、300年以上の歴史を持っております。津軽藩お抱えの塗師たちによって武具・馬具・什器などに漆が塗られ、独特の研ぎ出し技術の基礎が築かれました。明治時代初頭から「津軽塗」と呼ばれ産業として発展してきました。
「津軽塗」には、代表的な4つの技法(唐塗、 七々子塗、紋紗塗、錦塗)があります。 漆工技術の分類では「研ぎ出し変わり塗り」と言われ、津軽塗の最も大きな特徴と言えます。塗っては研ぎ、 塗っては研ぐという大変手間のかかる技法は、40数回の工程と2ヶ月以上の日数を費やして仕上げられます。そうして出来上がった作品は、重厚で美しく、温もりと潤いにあふれています。そして何より非常に耐久性があり、津軽塗はよく「堅牢」という言葉で評されます。
津軽塗の代表的な技法
唐塗(からぬり)
津軽塗の代名詞、定番中の定番「唐塗」。 鮮やかな色漆の断層模様が浮かび上がる深い味わいと幻想的な輝き、素朴で力強ささえ感じさせる重厚な塗り。唐塗は津軽塗の代表的な4技法の中でも最も古い歴史を持つ塗りで、津軽塗の技術的特色が集約された技法です。唐塗の「唐」には、当時の高級な舶来品「唐物」にちなんで高級感・珍しさの意味を込めたものだと言われています。 唐塗は「呂上げ」「黒上げ」「赤上げ」等、地色の違いなどにより多彩なバリエーションがあります。
七々子塗(ななこぬり)
江戸小紋風の小さな輪紋を散りばめた、上品で高級感の漂う塗り。 唐塗とはがらっと雰囲気が変わり、繊細で可愛らしく、特に赤や朱の使われている塗りは女性に圧倒的な人気を誇ります。 七々子塗は、その小さな輪紋模様が魚の卵(ななこ)に似ている所から「ななこ塗」 と呼ばれるようになりました。その輪紋は菜種を使用して作り出され、これをムラなく綺麗に仕上げるにはとても高度な技術を要します。津軽塗職人の中でも、美しい七々子塗を仕上げることのできる職人は少なく、とても高級な塗りです。
紋紗塗(もんしゃぬり)
津軽塗の中で異彩を放つ、黒一色の渋い塗り「紋紗塗」。 黒漆の模様に紗(津軽地方で、もみ殻のこと)の炭粉を蒔き、研ぎ出して磨き仕上げます。 艶消しの黒の地色に、艶のある漆黒の模様が浮かび上がる様は、重厚で格式を感じさせるとともに、シンプルで現代のライフスタイルにも取り入れやすく、近年人気が高まっています。
錦塗(にしきぬり)
錦塗は七子塗りの変化の一種で、ななこ地に黒漆で唐草や紗綾形を描き錫粉を蒔いて錦を想わせるような華やかな技法で、製作には非常に手間がかかり、高度な技術を要します。その豪華絢爛ぶりは、金や銀の蒔絵に憧れた津軽塗職人の意地と情熱によるものと言えます。
津軽塗十二衆
鈴木 滋 / 黒滝 茂美/ 工藤 健蔵/ 鈴木 孝/ 木村 正人/ 熊谷 慶孝