染めるのは、型にはまらぬ洒落心
武士の裃(かみしも)の柄染めが始まり、という江戸小紋。その歴史は古く、ゆうに400年を超える。遠目に見ると無地に見えるほどの細かい柄は、平和な時代の武士が「さらに細かく」と競い合う中で「極鮫(ごくさめ)」、「菊菱(きくびし)」など数々の意匠が生み出されてゆく。江戸中期になると豊かになった市井の人々も小紋を着るようになり、花鳥風月など様々なものをモチーフにした型紙が多数作られ発展していく。
富田染工芸は、1914(大正3)年に創業した江戸小紋・江戸更紗等の染め工房。染色業が集まる新宿区の工房は、「板場」や、染めた生地に色を定着させる「蒸し箱」も昔ながらの形で残り、風情を感じさせる。歴史のある工房らしく収集した伊勢型紙の数は、江戸小紋、江戸更紗をあわせると12万枚にも及ぶ。型紙の中にはモダンな感覚のものも多い。
SARAKICHI/更吉
江戸小紋の表現技法で最高峰と言える「両面染」。
1ミリに満たない厚みの絹布に、染料が裏に響かないよう、表面、裏面を染める。布に浸み込む染料を片面それぞれ数百ミクロンで止めるのだ。それは熟練した手仕事でなければできない「技」。肝となる色糊の調合には、熟練の経験と技を要し、今や数えるほどの職人しか手掛けられない。着物の着こなしでは、裏の紋様は裾や袂からチラリと見えるところが洒脱とされる。
SARAKICHIは、着物の歴史とその伝統技術を基軸としながらも、現代に流れを乗せて新しいデザインを生み出すブランドとして、女性もののスカーフやストールだけではなく「小紋タイ」や「小紋チーフ」など、男性向けアイテムへと、その枠を広げている。新たな世界感を生み出すと共に、ひとつひとつ手染めであるからこそ感じられるクオリティが感じられる。
着物文化の域を超え、武士、江戸っ子たちの洒落心を今に伝えている。