立秋を迎え、暦のうえでは秋の始まりです。
「秋来ぬと 目にはさやかに 見えねども 風の音にぞ おどろかれぬる」。照りつけるような太陽も少しだけ日射しが和らぎ、ふと涼やかな秋の風を感じることがあります。季節は少しずつ秋に近づいているようです。
夏扇
クーラーも扇風機もない時代、涼やかに夏の着物をまとい、装いの仕上げに手にした夏扇は、見る人にも涼やかさを運んでくれたことでしょう。また着物や帯同様に、夏扇の題材として 萩や桔梗など秋草が多く見られます。暑さをしのぐ実用の夏扇にも、季節を先取りすることで涼を誘う繊細な感覚は、四季がある日本ゆえに生まれたのでしょう。夏の終わりの涼風に、いち早く秋の訪れを感じ取ってきた日本人独特の感性や洒落心に、学ぶことはとても多いようです。
日本生まれの扇子
扇子は平安時代のはじめ、京都で誕生したと言われています。
平安時代の雛祭りの女雛が手にしている「檜扇(ひおうぎ)」が原型となり、平安中期には紙製の扇子も登場し、すでにその当時から宋代への中国へもたらされ、室町時代には盛んに輸出されています。やがて日本式の扇子は、ヨーロッパへと伝わり、社交界の貴婦人の手元を華やかに飾っていた扇子のルーツとなり、平安の都で誕生した扇子は、世界を席巻していたのです。
均整のとれた優美な形
扇子を手にすると、自然と丁寧になり、所作が美しくあらたまるから不思議です。扇子を使う手もとにはその人のたしなみが表れます。それは 数十工程にもよる職人の手仕事の結晶である、折り目正しい均整のとれた、美しく使いやすい形所以かもしれません。夏に涼をとるものとしてだけでなく、心を静め、日本人の礼節や美しい所作を身につける道具として、扇子を使いたいと思います。
季節毎に色柄を変えて扇子を持つのもよし、お気に入りの扇子で早速ためしてみてはいかがでしょう。
遠州綿紬扇子(静岡)6,500円(税抜)
遠州綿紬とは
静岡県の遠州地方は温暖な気候と豊かな自然に恵まれ、綿作り(わたづくり)に適していて、三河、泉州おならび、綿の三大産地として栄えました。遠州綿紬は江戸時代から織り始められ、明治の頃には生活着として庶民の暮らしに根付いていました。遠州地方の高温多湿な風土の中で、改良を重ねられた天然素材は、使い込むほどに風合いが増して肌に優しくよくなじむのが特徴です。明治以降、機織メーカーとして創業した現トヨタ自動車や浜松に本社を構えるスズキ株式会社により、動力で機織を動かす力織機(りきしょっき)が登場。昭和三十年代から全盛期を迎えました。しかし、平成になって海外製品に押され生産量は減る一方となりました。今も職人の手によって作られる「遠州綿紬」はかつての産地を今に伝える希少な織物。人から人へと受け継がれる伝統を大切にしています。