平戸洸祥団右ヱ門窯 三川内焼(長崎)Hirado Kosho Dan'emon Kiln Mikawachi Ware (Nagasaki)
11/1(金) - 12/31(火)
江戸初期に設置された平戸藩の御用窯の流れを汲む、三川内焼窯元。長崎県と佐世保市の無形文化財指定「平戸菊花飾細工技法」など伝統技法により染付された繊細な意匠の数々が勢揃い。
Mikawachi wear kiln is established in the early Edo period, which is descended from the Hirado Domain's official kiln. The pottery features a variety of delicate designs using traditional techniques such as the “Hirado chrysanthemum decoration work technique,” which is designated as an intangible cultural property by Sasebo City, Nagasaki Prefecture.
平戸洸祥団右ヱ門窯
ひらどこうしょうだんえもんがま
平戸藩御用窯の創立時の陶工の一人、中里エイこと高麗媼(こうらいばば)の直系にあたる窯元です。現当主中里太陽は十八代目に当たります。天草陶石(あまくさとうせき)を使って、白磁に青色で描いた染付を主体に制作しています。菊花飾(きっかかざり)の細工法を用いた装飾品をはじめ、明治、大正、昭和と伝わってきた美しい意匠をすべて見直し、現代にも十分通用する卓越した器を選び、再現に取り組んでいます。
一枚ずつ切り起こして生まれる、白い花
磁器製の菊の花で、「手捻り」の技法で用いられるパーツの一つです。先端の尖った竹の道具で、土の塊りから花びらの形に一枚ずつ切り出します。一周したところで、今度はそれらを一枚ずつ起こしていきます。何周もくり返すことによって立体的な菊の姿が現れてきます。壺や蓋、瓶に装飾として貼りつけられます。
彫り起こしたときは、花びらの一枚いちまいが鋭く立っていますが、釉を掛け焼成を経ると自然の菊のような柔らかさが醸し出されていきます。
会期中、平戸洸祥団右ヱ門窯 当主 中里太陽氏による実演をいただきます。ぜひこの機会にご覧ください。
日時:11月29日(金)15:00〜20:00
窯元「いま」語り
平戸洸祥団右ヱ門窯
当主 中里 太陽(なかざと たいよう)
平戸洸祥団右ヱ門窯
当主 中里 太陽(なかざと たいよう)
三川内焼という枠の中で
家族、親戚、周りの人たちはみんな、やきものに従事している環境でした。だから、生まれたときから家業を継ぐ選択肢しかありません。でも、いずれ家を継ぐのだからその前に自分の興味のあることをしてみようと思い、学生時代は福祉関係の勉強をしたり、海外に語学留学へ行ったり。でも、周りからは「本当にあの子は跡取りになるの?」と見られていたようです。
アメリカに語学留学をした後、長崎県窯業技術センターで研修生として学びました。その際に、九州電力若手工芸家国内外派遣制度に応募して、オランダへ留学。そこでやきものをしている日本人アーティストの工房で働き、デルフトの製陶所で研修。半年後、実家に戻りました。
当初は絵を描いてみようと思っていましたが、想像以上に難しく、絵柄を思いつくこともできない。ロクロや細工を手がけた方が私には合っていると思い、彫ったり、立体的に装飾したりする造形の専門になりました。
「三川内焼とは何か」ということを考えたときに、やはりキーワードとして染付や細かい細工ということが思い浮かびます。また、それと同時に三川内焼を名乗るなら、この原料でなくてはいけないといった「伝統的工芸品産業の振興に関する法律」があります。これらの枠の中で、どのように手がけていくかを常に考えています。枠があるからこそ、今の三川内焼の歴史があると考えるからです。
自分の名前で個展をしていますが、本来は三川内焼の窯元であるということが大切だと思っています。中里太陽という名前はいつかなくなる。でも、先人たちが積み重ねてきた三川内焼は、自分自身の作品につながっていく。だからこそ、誰かから絶えず見られているということを意識しながら、三川内焼を手がけています。
菊の細工へのこだわり
龍のひげなど、昔の人が手がけたものは、凄まじいまでに見事です。絵で描く際、ひげは一本の線で表現します。すうっと一本で引く、その極み。「置き上げ」の場合は、どうしても塗り重ねが必要です。その部分をうまく流れているように、一本の線ですうっと筋が立っているように描く。そんなひげの線が引けたときはとても気持ちがいいです。
「菊の細工ばかりではなく、もっとひまわりなどの違う種類の花に発展させてみればいいのに」
20代の頃にこんなことを言われました。でも、最近になって「ずっと菊を手がけてきて良かったんだ」と思います。三川内焼という枠の中で、いかに三川内焼であるかというものをつくるには、やはり自分が納得するまでは他のものを手がけられません。菊の細工自体がそのレベルに行ってからだと思ったからです。
菊の細工にこだわったからこそ、お客様に「三川内焼って何ですか」「あなたの窯の代表作は何ですか」と聞かれたときに、胸を張って「菊です」と答えられるようになりました。うちの窯と三川内焼の特徴が重なっています。三川内焼を他の産地と比較したとき、「細工ものが優れています」「染付は線一本に魂を込めて描いています」といった、変わらずに続けてきたことを今後も三川内焼の魅力として推し進めていけたらと思っています。