骨董のある風景 醸成月 野弁当Japanese Antiques -Open-air lunch box-
彼岸を過ぎれば秋澄むころ。ときに雨空が続く頃ですが、一旦晴れた空は水晶のようで、かたく澄んだ日差しの中に一筋の冷たさを感じます。米が獲れ、木の実が熟し、食膳には焼きたての秋刀魚が載る美味しい季節でもあります。
Sometimes the rainy sky continues, but once the sky clears, it is like a crystal, and I feel a ray of coldness in the clear sunlight. It is also a delicious season when rice harvest, nuts are ripe, and freshly baked saury is on the table.
大人たちの節句
今風に言えばピクニック。骨董の「野弁当」や「提重」は秋の野遊びにぴったりです。 野弁当とは、小さめのお重箱や銘々皿、酒器などがひとつの箱に収まっており、携行するためのものです。中にはお箸までセットされて、本当に贅沢な品だなあと感心します。実際かなり高貴な家で、野点などの際に使われてきたもののようです。
提重とは、小さめのお重箱に持ち手がついたもの。大きく立派なお重箱では出来ないカジュアルな使い方が似合います。野弁当のことを提重と呼ぶこともしばしばあります。
さて中に入れるお弁当。手作りも良いですが、老舗どころのお弁当をひとつかふたつ買ってきてしまいましょう。ここはお道具に力を借りて、野弁当や提重に詰め込めば「我ながら…」と勘違いしてしまうほどの立派な見栄えに満足することでしょう。小さなお庭で気軽に愉しむのもまた良しです。
錦の小皿の使い方
季節が深くなってくると、ちょっと色が欲しくなって、さっぱりした染付よりも、錦手や色絵の伊万里に手が伸びます。骨董の器には決まったサイズがあり、4.5寸(13センチ前後)の小皿もまた定番の大きさです。小皿だと少しくらい派手でも主張しすぎず、ワンポイントにもなりますので、集めてみてほしいものです。
新米の季節、豪華なおかずがなくとも、佃煮などのご飯のお供を少しずつ盛り付けて、普段のお茶碗の横に添えてみたら、ちょっといい気分です。もともと質素な食事をしていた昔の人々は、器で彩りを添えたのです。

この季節、私が錦手の小皿に盛り付けたくなるのがチョコレートなどの洋菓子です。チョコレートと錦手との相性はほぼ100%と言っても過言ではないくらいに、その時間を甘く贅沢なものにしてくれます。読書やワインの時間などに、お気に入りの錦の小皿を手元に置いてみてください。

文/写真:藤川佳惠
*歴史の解釈には諸説ありますので、あくまでも一説とお考えください。