古き伝統を受け継ぎ、磨きあげられた確かな技術を駆使して作り上げられた 「燕鎚起銅器(つばめついきどうき)」。
工芸品ともいえる入念な手作業によって打ち込まれた槌目の美しさ、素朴な銅のやさしいぬくもりが、ひとつひとつ違った表情を見せてくれ、手造りならではの暖かさを伝えてくれる。
人類が初めて手にした金属は、「銅」と言われている。
江戸時代後期、仙台の渡り職人によって伝えられ、新潟県燕市で発展した燕鎚起銅器は、今や世界に名を馳せる“燕ブランド”の礎を築いた技術でありながら、非常に多くの工程を経て作られ、繊細な手作業となるため、熟練を要し、その伝統を継承し、一級のプロダクトを生み出せる職人は、今や日本でも数えるほどしかいない。
鎚起とは、金・銀・銅・錫といった金属の板を、大小の鎚(つち)やタガネで打ち延ばしたり、打ち縮めたり、焼いたり、叩いたりしながら成形し、最後に装飾や色をつけて、ひとつのうつわへと仕上げてゆくもの。銅器の表面は、金槌で叩いた面を広めに残した大槌目や、細かい金槌で文様を付け、着色も美しく、銅本来の色を生かした物から、錫を焼き付けた物など多彩、美しい模様は見ていても飽きが来ない。
そして何よりも、鎚起銅器の最大の魅力は「経年変化」だろう。
使い込むほどに色が渋く変化し、独特の色ずれと光沢が生まれ、味わい深い表情となる。使い手とともに過ごした時間の分だけ、風合いが増していく。通の酒飲みにファンが多いのは、この無骨かつ美しい姿、本物志向の男の心をとらえて離さない。
そんな心の豊かさをもたらしてくれる逸品を、ぜひ堪能してほしい。